『イコン』より

上と下の唇が蠢く。
行け行くな行け。
目が回る。
夢に出てくる。
白昼夢にも登場する。
俺の内で、彼女主演の映画が休む間もなく上映された。
手を変え品を変え、くだらないポルノの品評会。
フィルモグラフィーは一〇〇を超えた。
雑誌は変形していた。
角は折れ曲がり、所々破けてみっともなかった。
最もみっともないのは、ページとページがくっついていることだった。
俺はイカレてる。
彼女にイカレてる。
だが。
行くな行くな行くな――。



『ジャンク・シティ』より

歪んでいるのは外も中も一緒。
それでも、ここの空気には息が詰まりそうになる。
社会の縮図は、歪みだけが酷く濃密だった。
あの銀行で、仲間のスキニーに銃で撃たれたとき。
血の海から担架に引き上げられ、警官のひとりに「あれは間違いだったとさ。奴は脚を狙ったんだそうだぜ。
お前、とんでもない奴に銃を持たせたもんだな」と笑われたとき。

警察病院で担当刑事に「あいつはその辺の尻軽女より喰えないぜ。今までのマエ全部を帳消しにする条件で、
お前をはめたんだ。正直、お前に同情するよ」とからかわれたとき。

すべてが歪んだ。



『フェイカー』より

人類はほとんど滅亡に近い状態だ。
ラジオが叫ぶ。
「外には出ないように!」
ヤツ等は押し込んでくる。
「武装してください!」
ヤツ等はくたばらない。
「皆さん、協力して……ギャアアア!!」
悲鳴。
銃声。
雑音。
無音。
俺はハンドルから手を伸ばし、ラジオを止めた。



『写真と銃弾』より


バイバイ、ベイビー。
加速してゆく。
堕ちているのはわかっちゃいたけど。
どんどん、どんどん。
スピードが上がる。
メーターの針が振り切れる。
壊れそうだ。
このままじゃ壊れそうだ。
ベイビー。
俺の女。
今、下を見れば、地面まで何マイルあるだろう。
いや。
もう目の前かもしれないな。


すべて、途中で放り出した文章からの抜粋。
すべて「俺」節。

続けるかもしれない。
映像が浮かべば……。



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