!!!ご注意ください!!!

以下の作品には、
性的な表現があります。
猟奇的な表現があります。
(どちらも成人指定とするには、
作者自身気が引けますが……)







彼女は卵
 すでに死後硬直が始まりかけた俺の身体を、彼女はいとおしげに撫で続けた。

 空気が震え、黒い蝋燭の灯りが揺れた。


「どうして……」


 疑問は涙に掠れて立ち消えた。

 俺が口を開けることができたら、きっと喚いているだろう。


 どうして?


 どうしてだと?


 お前が殺したんじゃないか!!



 俺を縛り上げた彼女。


 欲望が支配する微笑。


 窒息させられるのが俺の好みだった。


 だから、懇願した。


 早くやってくれ!と。


 拘束された手足をわざとばたつかせ、彼女を煽った。


 そして。


 ゆるりと巻かれた彼女のストッキングが、俺の喉を握り潰した。


 俺たちは繋がってはいなかった。


 次第に暗く狭くなっていく視界の中で、俺は俺のペニスから吐き出されたものを見た。


 精液が彼女を汚し、彼女が狂喜に顔を歪ませるのを見た。


 俺は、小さな死が大きな死へと変わっていくのを感じた。



 俺は何人も殺してきた。

 それは、手段だった。


 死ぬための手段だ。


 反撃を受けて、自分が倒れる様を、取り上げられたナイフで切り裂かれる様を思い描いていた。


 できれば、絞め殺して欲しかった。


 だが、実際にはほとんど無傷で、役立たずな死体だけが残った。


 俺の手際が良すぎたのか、と首を捻らずにはいられなかった。


 もしかしたら。


 俺と同様に、死を受け入れたいと願う者ばかりを運悪く選んでしまっていたのかもしれない。


 いっそ、警官を襲おうか?


 だが、銃はごめんだった。


 頭のなかでは、いろいろな職業が浮かんできていた。


 マーシャルアーツの達人やら柔道家やら…。


 そんなときだった、彼女に出会ったのは。


 彼女には『何か』があった。


 彼女自身の殻を破って飛び出そうと待ち構えている『何か』が。


 それに酷く惹かれ、暗い夜道で彼女を襲った。


 彼女は大声を上げ、だが、手にしたナイフにも怯まず立ち向かってきた。


 俺は驚愕と感嘆の声を漏らした。


 俺の女神。


 隙をついて踵を返そうとする彼女を捕まえた。


 彼女はもがいたが、体重と体力の差は歴然としていた。


 俺は彼女の首筋にナイフの刃をあてがって言った。


「殺してくれ。気持ちよくしてくれ。お前ならできるんだろう?」


 彼女の目がわずかに見開かれた。


 探していたものをようやく見つけたときのように。


 俺は彼女を解放し、彼女に跪いた。


 彼女の右膝が左側頭部に入った。


 女神からのキスだった。


 思わず射精した。



 俺は、彼女がさっさと俺の死体を処分するものと思っていた。

 彼女は誰かを殺したことはなかったが、いずれ必要になるかと勉強していたようだ。


 もちろん、俺もいろいろ教えてやった。


 だから、俺たちが所有する、一番大きくて鋭いナイフでバラバラにされると予想していた。


 だが。


 それはもう少し後のことだったのだ。


 しばらくして戻ってきた彼女の手にあったのは、数十センチの長さの太い針金とペンチだった。


 何をするつもりなのか、まったくわからなかった。


 彼女は俺の横に跪いた。


 弛緩したペニスを見下ろす。


 俺は直感し、興奮した。


 だが、それを伝える肉体は死んでいた。


 彼女がペニスを支えた。


 先端に針金をあてがい、尿道に滑り込ませた。


 ときどき引っ掛かりながらも、何とかそれらしく屹立させることに成功した。


 尖った先端をペンチで輪にし、余った長さは深くまで突き刺すことで処理した。


 角度を微妙に調整した。


 彼女は出来上がったオブジェに満足し、キスした。


 そして。


 俺に跨った彼女が、ゆっくりと身体を沈めてきた。



 上下に動く彼女の顔を見た。

 笑っているようにも、泣いているようにも見えた。


 俺は死んだときに感じた怒りを思い返した。


 殺してくれと頼んでおきながら、実際そうなると怒りが湧いてきた。


 何故だ?


 いや、わかってる。


 俺は、彼女とずっといたかったんだ。


 死にたくなかったわけじゃない。


 ただ、一緒にいたかったんだ。


 彼女の暴走が、俺たちの関係を壊したことに怒りを感じたんだ。


 クソッタレ!


 俺は最高にクソッタレだ。


 彼女の涙に謝った。


 すまない。


 言葉にしたかった。


 すまない。


 すまない。


 すまない……!!


 彼女の動きが早くなり、汗と涙が千切れ飛んだ。


 やがて。


 彼女が絶頂のただ中で叫んだ。


「ほら、あんたの狂気が子宮に届いたわ!!」



 俺はバラバラにされて、バラバラな場所に埋められた。

 内臓の一部は野良犬に掘り起こされて喰われた。


 彼女の腹は膨らんできていた。


 まるで卵だった。


 想像妊娠なのだろう。


 多分。


 いや、きっと……。


 妄想と狂気の受精卵がどうなるのか、見定めることができたらいいのだが。


 あいにく、俺の意識は薄れ出していて、いったい何が「オギャア」と誕生するのか知ることはない。


 本当に残念だ。

                                           (終)
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