袋の中身
2005.01.27
何とも奇妙だった。
ストレッチャーに乗せた死体袋を運び込んだ警官達は、
皆一様に青褪めた顔をしていた。
そんなに酷い状態なのだろうか?
歳若く経験の浅い連中ならばいざ知らず、
顔見知りである年配の刑事まで表情を強張らせているのは異様だ。
私は死体袋のジッパーに手を掛けながら口を開いた。
この舌は、
例えどんなに腐敗の進んだ遺体を前にしても常に饒舌だった。
「被疑者は確保出来たと聞きましたが?」
年配の刑事は一言呻いた。
それが返事だった。
もともと口数の少ない相手の、
しかも機嫌の悪い時に質問したのが間違いだったのだ。
私は肩をすくめて、袋の中身を確かめた。
だが。
ああ、何ということだろう。
そこにある抱きかかえられた首だけの被疑者を見て、
さしもの私も呻く他なかった。
Copyright(C) Arata Nakajima All rights reserved.
back